『戦後復興首脳列伝』写真お見せします!
麓直浩さんによる新作『戦後復興首脳列伝』が完成したので、写真をお見せします!

ご覧の通り、かなり派手なカバーになっておりますが、毎度、装丁のデザインは私、編集者であるハマザキカクがやっています。戦後の復興という事で建築や鉄鋼をイメージしながらPhotoshopのフィルターをいじりまくっている内に、DVDのジャケットの様になってしまいました(笑)が、なかなか気に入っています。

鋼鉄感が非常に出ており、ある意味メタルのジャケットにも見えなくもない。

帯を取った状態。上にいるのは吉田茂、アデナウアー、そしてデ・ガスペリという日独伊三国同盟の敗戦国の戦後の首脳陣達。下はチトー、フランコ、ケマル・パシャ、サダトと、現代史における「戦後復興」を担ったと解釈できる首脳達。

さて第一部の扉です。『栄光との決別』がテーマで、この章では戦争で徹底的に敗北を期したというよりは、栄光の頂点からどんどん下り坂になっていった国が、いかにバランスよく身分相応にソフトランディングを果たしたかという事例で、ある意味、現在の日本に通じるものがあります。
第二部は『廃墟より甦れ』で、第一部とは対照的に、国土が灰燼に帰し、絶望的なまでに痛め付けられた状況から、いかにして復興を遂げたかという、本書の本テーマとも言える部です。
第三部は『名誉ある失敗者たち』で、赴きを変えて、戦後復興に上手くいかなかった首脳達の失敗話がテーマです。

さて本文ですが、カバーの現代的なイメージとは裏腹に、古代ギリシャや古代中国も扱っています。これは白村江の戦いの後の天智天皇の話です。
私もあまり意識する事はありませんでしがが、白村江の戦いで大和政権が新羅・唐に対して徹底的に敗北した結果、百済の支配階級が大勢、日本列島に移住しました。そしてそれまで大和は文化的にも遺伝子的にも大陸向きで、中国文明の東端の辺境という性格が強かったのですが、国防体制を堅める必要に迫られ、中央集権化を急ぎ、結果的に「日本」という文化圏をまとめ上げる切っ掛けとなったそうです。「戦後処理」がある意味、「日本の建国」に繋がっていったという解釈には目から鱗が落ちました。

そして実は似た様な事がイギリスにも言えます。百年戦争でフランスの領土を失い、薔薇戦争でイギリスは荒廃に陥っていました。ランカスター家のヘンリー七世は出自は傍流でしたが、強引な政略結婚により強固な王権確立を果たし、貴族の力を弱め、中央集権を進めました。
そして「イングランド王」は元を辿ると、フランスのノルマンディー公なので、フランスと対等な一国の主であると共に、フランスの有力貴族でもあるという、フランスの影響を大きく受けた複雑な立場にありました。
しかし百年戦争で領土を失い、ヘンリー七世がイングランドの統治に専念した結果、初めてフランスと距離を置いた「イングランド」という文化圏が象られたとも言えるという解釈です。これも「戦後復興」が結果的に「建国」に繋がっていった興味深い事例と言えます。なるほどと言わざるを得ませんね。

さてこの本で最も親しみを覚える戦後復興首脳は、吉田茂ではないでしょうか。元々、親英米派で知られ、戦争末期には憲兵によって逮捕までされていた吉田茂は、GHQからも好まれ、マッカーサーとは信頼関係を構築します。そして単独講和を押し切り、資本主義陣営の一国として日本はアメリカの庇護の元、冷戦下で復興を遂げていくのです。

吉田茂と似た存在の西ドイツのアデナウアー。彼もソ連や共産主義の危険性を重視し、慌てて東ドイツとの統一を急ぐより、西側陣営の中で国力・経済力を増強する事を優先しました。その結果、西ドイツはラインの奇跡と呼ばれる戦後復興を成し遂げました。

西ドイツのアデナウアーとの比較で、東ドイツのウルブリヒトも登場します。東側陣営の中では優等生と呼ばれた東ドイツで、それなりに上手く立ち回った方だとは思いますが、やはり西ドイツには敵いません。ウルブリヒトの政策もソ連の意向によって二転三転しており、晩年は実権を奪われます。

『戦後復興首脳列伝』は『敗戦処理首脳列伝』の続編とも言えるコンセプトなのですが、『敗戦処理首脳列伝』の中でも強烈な存在感を放ったトルコのケマル・アタチュルクも登場します。オスマントルコが崩壊していく過程で、列強からも攻め込まれ、アラブ諸国が独立していくという修羅場で、トルコ共和国の礎を築いたその手腕は現代史の中でも偉業で、光り輝いています。彼の敗戦処理、そしてその後の戦後復興のリーダーシップは凄まじいです。

今回の『戦後復興首脳列伝』では12ものコラムを設けました。例えばこの章では、敗戦国ではなく、戦勝国がいかにして敗戦国に対して寛大な施しをしたかなど、戦勝国の勝者としての見事な立ち振る舞いを紹介しました。

このコラムでは、現代史の中でもエース級の敗戦国、ブルガリアの敗戦ぶりを分析しています。ブルガリアは第二次バルカン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして冷戦と、言わば四つの戦争に連敗している訳ですが、なんでそんな羽目に陥ってしまったのかが、哀れみを誘います。

『戦後復興首脳列伝』では普通の歴史書や戦記物では出てこない様な、かなりマイナーな戦争や首脳も沢山出てきます。例えばアルジェリア戦争後のブーメディエンやユーゴ紛争後のクロアチアのサナデルなど。こうした第三世界のマニアックな事例にも対等に目を向ける麓さんの姿勢が素晴らしいです。脱線しますが、このブーメディエン、どうもサシャ・バロン・コーエンが演じるボラットに似ていて、マヌケ面に見えます。

さて最後の方では戦勝国が戦後処理に失敗した事例も紹介しています。例えば南北戦争後のアンドリュー・ジョンソンです。戦争、そして講和というと、戦勝国が敗戦国に対して寛大に接し、両国が手を携えて平和を享受するみたいな美談が、歴史書の定番の流れの様な気がします。
しかしこのアンドリュー・ジョンソンは逆で、北軍が多くの犠牲を払ってやっとの事で勝ったにも関わらず、南軍に対して、あまりにも甘めの措置を執ったが為に、旧南軍の政治家達が付け上がり、旧北軍の仲間達からは愛想を尽かされ、支持基盤まで失い、下手すると何のために戦争までして勝ったのか、よく分からない状態まで追い込まれた、戦勝国にとっての最悪の戦後処理の事例です。この様な戦勝国による戦後処理の失敗にまで目を付けた麓さんの着眼点に脱帽です。
……と「戦後復興」という視点から、歴史上の色々な君主達の業績や失敗を多角的に分析し、歴史物語調で説いてみせた『戦後復興首脳列伝』、大変読み応えがあり、そして非常に示唆に富んでます。

前作の『敗戦処理首脳列伝』と合わせて読むと、よりいっそう楽しめます。

麓さんは弊社から『ダメ人間の世界史』と『ダメ人間の日本史』を山田昌弘さんと共著で出しており、これで通算四冊目となります。
正史ではなかなか正当に評価される事のない、歴史の影に埋もれたマイナー偉人達を愛情深く再発掘する事に関して、右に出る者がいないと言っても良い、麓直浩さんの一連の作品、全てお勧めです。
普通、戦争本というと戦勝者の武勇伝が多いところ、敗戦者を扱っている時点で捻くれていると言ってもいいですが、日本人は判官贔屓ともよく言われ、弱い者、負けた方に感情移入した本は確かに結構あります。
しかし戦いに敗れ、殺されたとか殉死したという悲劇のヒーローではなく、敗北が確定してから敗戦の処理をする様仕向けられた、貧乏くじを引かされた首脳達にフォーカスした『敗戦処理首脳列伝』、そして敗戦が確定し、賠償金を課され、領土や人口が減り、国民が絶望的な状況に陥っている中で、戦後復興を担った首脳にフォーカスした『戦後復興首脳列伝』は、戦争本の中でもとてもユニークでオリジナルな視点を持っていると言って良いのではないでしょうか。
その『戦後復興首脳列伝』、早ければ8月29日頃、書店に並ぶ予定です。是非、お買い求め頂ければ幸いです。

ご覧の通り、かなり派手なカバーになっておりますが、毎度、装丁のデザインは私、編集者であるハマザキカクがやっています。戦後の復興という事で建築や鉄鋼をイメージしながらPhotoshopのフィルターをいじりまくっている内に、DVDのジャケットの様になってしまいました(笑)が、なかなか気に入っています。

鋼鉄感が非常に出ており、ある意味メタルのジャケットにも見えなくもない。

帯を取った状態。上にいるのは吉田茂、アデナウアー、そしてデ・ガスペリという日独伊三国同盟の敗戦国の戦後の首脳陣達。下はチトー、フランコ、ケマル・パシャ、サダトと、現代史における「戦後復興」を担ったと解釈できる首脳達。

さて第一部の扉です。『栄光との決別』がテーマで、この章では戦争で徹底的に敗北を期したというよりは、栄光の頂点からどんどん下り坂になっていった国が、いかにバランスよく身分相応にソフトランディングを果たしたかという事例で、ある意味、現在の日本に通じるものがあります。
第二部は『廃墟より甦れ』で、第一部とは対照的に、国土が灰燼に帰し、絶望的なまでに痛め付けられた状況から、いかにして復興を遂げたかという、本書の本テーマとも言える部です。
第三部は『名誉ある失敗者たち』で、赴きを変えて、戦後復興に上手くいかなかった首脳達の失敗話がテーマです。

さて本文ですが、カバーの現代的なイメージとは裏腹に、古代ギリシャや古代中国も扱っています。これは白村江の戦いの後の天智天皇の話です。
私もあまり意識する事はありませんでしがが、白村江の戦いで大和政権が新羅・唐に対して徹底的に敗北した結果、百済の支配階級が大勢、日本列島に移住しました。そしてそれまで大和は文化的にも遺伝子的にも大陸向きで、中国文明の東端の辺境という性格が強かったのですが、国防体制を堅める必要に迫られ、中央集権化を急ぎ、結果的に「日本」という文化圏をまとめ上げる切っ掛けとなったそうです。「戦後処理」がある意味、「日本の建国」に繋がっていったという解釈には目から鱗が落ちました。

そして実は似た様な事がイギリスにも言えます。百年戦争でフランスの領土を失い、薔薇戦争でイギリスは荒廃に陥っていました。ランカスター家のヘンリー七世は出自は傍流でしたが、強引な政略結婚により強固な王権確立を果たし、貴族の力を弱め、中央集権を進めました。
そして「イングランド王」は元を辿ると、フランスのノルマンディー公なので、フランスと対等な一国の主であると共に、フランスの有力貴族でもあるという、フランスの影響を大きく受けた複雑な立場にありました。
しかし百年戦争で領土を失い、ヘンリー七世がイングランドの統治に専念した結果、初めてフランスと距離を置いた「イングランド」という文化圏が象られたとも言えるという解釈です。これも「戦後復興」が結果的に「建国」に繋がっていった興味深い事例と言えます。なるほどと言わざるを得ませんね。

さてこの本で最も親しみを覚える戦後復興首脳は、吉田茂ではないでしょうか。元々、親英米派で知られ、戦争末期には憲兵によって逮捕までされていた吉田茂は、GHQからも好まれ、マッカーサーとは信頼関係を構築します。そして単独講和を押し切り、資本主義陣営の一国として日本はアメリカの庇護の元、冷戦下で復興を遂げていくのです。

吉田茂と似た存在の西ドイツのアデナウアー。彼もソ連や共産主義の危険性を重視し、慌てて東ドイツとの統一を急ぐより、西側陣営の中で国力・経済力を増強する事を優先しました。その結果、西ドイツはラインの奇跡と呼ばれる戦後復興を成し遂げました。

西ドイツのアデナウアーとの比較で、東ドイツのウルブリヒトも登場します。東側陣営の中では優等生と呼ばれた東ドイツで、それなりに上手く立ち回った方だとは思いますが、やはり西ドイツには敵いません。ウルブリヒトの政策もソ連の意向によって二転三転しており、晩年は実権を奪われます。

『戦後復興首脳列伝』は『敗戦処理首脳列伝』の続編とも言えるコンセプトなのですが、『敗戦処理首脳列伝』の中でも強烈な存在感を放ったトルコのケマル・アタチュルクも登場します。オスマントルコが崩壊していく過程で、列強からも攻め込まれ、アラブ諸国が独立していくという修羅場で、トルコ共和国の礎を築いたその手腕は現代史の中でも偉業で、光り輝いています。彼の敗戦処理、そしてその後の戦後復興のリーダーシップは凄まじいです。

今回の『戦後復興首脳列伝』では12ものコラムを設けました。例えばこの章では、敗戦国ではなく、戦勝国がいかにして敗戦国に対して寛大な施しをしたかなど、戦勝国の勝者としての見事な立ち振る舞いを紹介しました。

このコラムでは、現代史の中でもエース級の敗戦国、ブルガリアの敗戦ぶりを分析しています。ブルガリアは第二次バルカン戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして冷戦と、言わば四つの戦争に連敗している訳ですが、なんでそんな羽目に陥ってしまったのかが、哀れみを誘います。

『戦後復興首脳列伝』では普通の歴史書や戦記物では出てこない様な、かなりマイナーな戦争や首脳も沢山出てきます。例えばアルジェリア戦争後のブーメディエンやユーゴ紛争後のクロアチアのサナデルなど。こうした第三世界のマニアックな事例にも対等に目を向ける麓さんの姿勢が素晴らしいです。脱線しますが、このブーメディエン、どうもサシャ・バロン・コーエンが演じるボラットに似ていて、マヌケ面に見えます。

さて最後の方では戦勝国が戦後処理に失敗した事例も紹介しています。例えば南北戦争後のアンドリュー・ジョンソンです。戦争、そして講和というと、戦勝国が敗戦国に対して寛大に接し、両国が手を携えて平和を享受するみたいな美談が、歴史書の定番の流れの様な気がします。
しかしこのアンドリュー・ジョンソンは逆で、北軍が多くの犠牲を払ってやっとの事で勝ったにも関わらず、南軍に対して、あまりにも甘めの措置を執ったが為に、旧南軍の政治家達が付け上がり、旧北軍の仲間達からは愛想を尽かされ、支持基盤まで失い、下手すると何のために戦争までして勝ったのか、よく分からない状態まで追い込まれた、戦勝国にとっての最悪の戦後処理の事例です。この様な戦勝国による戦後処理の失敗にまで目を付けた麓さんの着眼点に脱帽です。
……と「戦後復興」という視点から、歴史上の色々な君主達の業績や失敗を多角的に分析し、歴史物語調で説いてみせた『戦後復興首脳列伝』、大変読み応えがあり、そして非常に示唆に富んでます。

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正史ではなかなか正当に評価される事のない、歴史の影に埋もれたマイナー偉人達を愛情深く再発掘する事に関して、右に出る者がいないと言っても良い、麓直浩さんの一連の作品、全てお勧めです。
普通、戦争本というと戦勝者の武勇伝が多いところ、敗戦者を扱っている時点で捻くれていると言ってもいいですが、日本人は判官贔屓ともよく言われ、弱い者、負けた方に感情移入した本は確かに結構あります。
しかし戦いに敗れ、殺されたとか殉死したという悲劇のヒーローではなく、敗北が確定してから敗戦の処理をする様仕向けられた、貧乏くじを引かされた首脳達にフォーカスした『敗戦処理首脳列伝』、そして敗戦が確定し、賠償金を課され、領土や人口が減り、国民が絶望的な状況に陥っている中で、戦後復興を担った首脳にフォーカスした『戦後復興首脳列伝』は、戦争本の中でもとてもユニークでオリジナルな視点を持っていると言って良いのではないでしょうか。
その『戦後復興首脳列伝』、早ければ8月29日頃、書店に並ぶ予定です。是非、お買い求め頂ければ幸いです。
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